学級崩壊の教育現場で「教科担任制を小学校4年生から導入」!? 現場を直視しない文科省の愚策【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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学級崩壊の教育現場で「教科担任制を小学校4年生から導入」!? 現場を直視しない文科省の愚策【西岡正樹】

学級崩壊の立て直し任されてきた名物教師が語る

 

■不安定な教育現場を直視していない文科省の愚策

 

 ここに示された課題は、現場の目からしても納得のいくものである。これらは現実的な課題であり、これらの課題克服によって子どもたちはより安定していくだろうという予想は立つ。しかし、これらの5つの課題をまだ克服していない子どもたちが、「教科担任制」という関係が希薄になりがちな教室で学び続けて、果たして文科省が求める「主体的・対話的な深い学び」を得ることができるのだろうか。

 これまでに曲がりなりにも中・高校生が「教科担任制」でやってこられたのは、中・高校生が上記の課題を克服し「自立した存在」として一人ひとりが力を発揮することができていたからではないのか。「教科担任制」の中で、子どもが学び続けられるためには、子どもが「自立した存在」でなければならないということは、これまでの実践が証明している。

 余談であるが、近年、中学校での不登校の多さは、上記の課題がまだ克服できていない多くの中学生の存在があるし、個と個の関係性が希薄な「教科担任制」と「中学生の不登校」は全く無関係ではないのではないだろうか。

 先述した学級崩壊の現状を思い出してもらいたいが、今多くの教室では、不安定な子どもたちが目立っている。その要因は様々であるが、この不安定な子どもたちが上記の課題克服を含め、4年生以降さらに多くの事を体験し学ぶことを強いられるのである。このような環境の中での「4年生への教科担任制拡大」は、果たして何を目的にして行われるのか、私には全く理解できない。そればかりか、さらに多くの「学級崩壊」を引き起こす要因になりかねないと、危惧するばかりである。

 子どもは、一人で育つわけではない。特に学童期の子どもは、教師、友だち、親、兄弟などの他者との関係性の中で育っていくのだ。子どもは多様な人と繋がり、他者と協働し学び合い、時には助け合いながら自分の思いや考えを具現化していくことに喜びを見出していく。そのような時期に、関係性がより希薄になる「教科担任制」を小学校に導入しようとするのはいかがなものか。少々の暴言を許してもらえるならば、これこそ実態を見ないで策を練る「机上の空論」と言われても仕方がない。

 教室にいる様々な子どもたちの実態を見れば、「教科担任制の拡大」という考えには至らないはずなのだが、現状はそうではないようだ。社会が変化していけば今まで通用していたことが通用しなくなるのは当然のことだが、子どもたちが育つ新しい環境を創ろうとするならば、目の前にいる子どもたちを「ちゃんと見る」ことから始めなければならないのではないだろうか。

 今、「目の前にいる不安定な子どもたちを安定させることが、様々な課題克服のための一歩である」ということが、目の前にいる子どもたちを見て私の思うことである。「教科担任制を拡大」もやってみないと分からないではないか、という思いを持っている者もいるかもしれないが、不安定な子どもたちの様子を見ていると、「その施策は子どもたちをさらに不安定にさせるものだ」と言わざるを得ないのだ。ご一考を願いたい。

 

文:西岡正樹

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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